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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(オ)414号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人指定代理人柳沢千太、同太原順三の上告理由一について。

原判決は、まづ、その冒頭において、本件における主要な争点は、(一)本件土地が自創法にいわゆる牧野に該当するかどうか、(二)自作農の創設上これを買収するを相当とするかどうかの二点にありとし、原判文の前段において右(一)の命題、本件土地が自創法にいわゆる牧野に該当するかどうかについて判断を示しているのである。

よつてこの点に関する原判決の判示するところを仔細に検討するに、原判決は、まづ、自創法二条一項の「牧野とは、家畜の放牧又は採草の目的に供される土地(農地並びに植林の目的その他家畜の放牧及び採草以外の目的に主として使用される土地を除く。)をいう。」における牧野の意義を理解するについても、あくまでも自創法制定の趣旨とするところに副うように解釈すベきものであることをあきらかにし、土地の現況が家畜の放牧又は採草に適するものといえども、植林の目的、その他家畜の放牧又は採草以外の目的に主として供され、又は供されるを適当とするものはこれを牧野として買収すベきものでないとしている。

次で、原判決は、本件地区の現況について、「本地区は群馬県利根郡片品村に所在する土地台帳面積一八、三二九町四反四畝二四歩、実測面積一五、九七五へクタール余の広さを有する通称戸倉山林の一部」であることを明らかにしたのち、本地区の各部分につき、その実地につき現況をくわしく説明したうえ、本地区は前示面積広大な通称戸倉山林の一部であつて、同山林の林業開発をなすにおいては、苗圃地、貯木場等の設備地としては最適であること、被上告会社の前身たる関東配電株式会社は、昭和一六年一月七日森林法所定の施業案を編成し、同一七年三月九日主務庁の認可を得て、右戸倉山林の全地域を結合して一施業地区とし造林の施業を実施することとなつたが、当時あたかも戦時状態で、苗木、人手などに不足して造林の実行は意のごとくならず、昭和二一年中群馬県知事の要請により緊急食糧増産計画の一環を荷うため、本件土地の一部に開墾を施したが気候、土質の関係上殆んど収穫の見るベきものなく、戦後は苗圃地とし或はからまつの植林をしたこと、本地区は、右施業案の編成、実施に当つて、その地理的条件、地勢地質の関係、造林事情、経営経済上の関係等よりみて枢要な地位を占め、その地理的条件から林業用地としては、本地区を失うことは、これに直接依存する後背地の施業を著しく因難不利ならしめ、右施業案全体に重大なる影響を及ぼし、本地区を戸倉山林施業地区から除外するとせば、施業案の目的完遂は困難となり、将来の経済計算は不採算となる公算極めて大きく、戸倉山林の森林保護を困難ならしめ、造林生産力の増進を阻むのみならず、若しこれを採草地とした場合には、治山、冶水、水力涵養上悪影響を及ぼす、本地区が戸倉山林全地区から分離して採草地として点在することは地理的条件からみて、森林計画の立案遂行上、又は経営経済上にも不利を与えること等をその挙示する各証拠によつて認定し、結局「本地区を牧野として買収することの極めて不当なる点が認められるのである」としているのである。これら原判文の前後を通読するにおいては、原判決は本件土地は自創法にいわゆる買収の対象としての「牧野」とすることはできないとするの判意を看取することができるのであつて、すなわち原判決は結局本件土地は自創法二条一項にいう「植林の目的その他家畜の放牧及び採草以外の目的に主として使用される土地」として同条所定の「牧野」に該当せずとの結論を判示しているものと推断することができるのである。

そして、原判決の右の結論は、その説述するところに従つて十分にこれを肯認することができるのであり、原判決の判断をもつてこの点に関し不明確であるとする論旨はあたらないと云わなければならない。(尤も原判決の説明中にも、買収処分後の事情を加えて買収の適否を判断したごとき瑕疵のあること論旨の指摘するとおりであるけれども、これを除外しても全体として原判決の結論とするところはこれを是認することができるのである。)

また、原判決の右の判断は、本件土地の「客観的な事実状態」を基盤として為されているものというべきことは如上説述するところからもあきらかであつて、所論引用の当裁判所の判例の趣旨に背反するところはなく、もとより原判決は森林法によつて森林と認められているが故に牧野にあらずと判断したものでもないのであつて、これら論旨はすべて採ることができない。

同二について。

論旨は原判決がその第二段として前掲(二)の命題について本件買収は相当でないとした点を攻撃するものであるが、原判決がその第一段において、本件土地は自創法二条一項所定の牧野にあらずと判示した以上、原判決の右の判示は単に第一段の認定に関する捕足若しくは蛇足の説明と解すべきであつて、第一段において本件買収は違法であるとする以上、この点に関する論旨結局無用の論たるに帰着し、採用の限りでない。

よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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